トリスタンとイゾルテ

 僕はヴァーグナーが好きではない。特に「ニーベルンゲンの指輪」や「ニュールンベルクのマイスタージンガー」は正直聴かなくてもいいと思っている。ただ「トリスタンとイゾルテ」だけは例外である。好きになったきっかけはヴィスコンティの「ルートヴィヒ」で使用されていたからである。
 ヘルダーリンはある論文の中で、パトスの極限において人間は空間と時間以外を忘却するということをいっていたが、「トリスタンとイゾルテ」の第2幕はまさしくどんなパトスの極限においても人間は空間と時間を忘却できない、その制約から逃れることができないということを最高の形で表現しているといっても過言ではないと思う。