♪よーく考えよー♪

okagou2005-05-12

 エッカーマンの『ゲーテとの対話』には以下のようなくだりがある。

 「経験を積むとなると先立つものは金だよ。私が飛ばす洒落の一つ一つにも、財布一ぱいの金貨がかかっているのだ。今時分の知っていることを学ぶために、五十万の私の財産が消えていったよ。父の全財産だけでなく、私の俸給も、50年余にわたる相当な文筆収入も、そうだ。」 『ゲーテとの対話』岩波文庫 中巻 64P 山下肇

 ゲーテは文学的教養を身につけていくためには、ある程度のお金が必要とはっきり述べている。そして才能だけではだめで、大きな社会の中で生活したり、遊んだりしていろんな経験を積む必要があると主張している。その経験を積むためには「よーく考えよー、お金は大事だよー」ということになるわけだ(ちなみにお金のことをよーく考える人はア◯ラ◯クなんか選ばない)。それはまったく正しいといわざるを得ない。

 しかし日本では文学(文学研究も含む)をお金と結びつけていけないと考えるムードが残っており、就職やお金のことなんかを気にするものが文学や文学研究をやるなという人が多いのは事実である。私にドイツ語を教えていた名誉教授なんかはその典型であり、その人の前で就職、将来への不安なんか口にすること自体はばかられていた。
 しかし歴史を振り返ってみると、夏目漱石谷崎潤一郎のような日本の文豪ではむしろお金にうるさかったのが多数派であり(特に夏目漱石なんかは小説家になったのもお金がからんでいるらしい)、お金に無頓着だったのは一部の純文学の人や無頼派くらいなものである。
 
 ちなみにその名誉教授はゲーテが専門だった。その名誉教授がこの文章を読んでどういう感想を述べるか、ぜひお聞きしたいものだ